TOPKたんぱく質の動きを阻害して癌を消滅させる新薬
2014/11/01
この開発中の癌治療に効果が認められた新薬OTS964について深めに調べてみました。
TOPK、、リポソーム製剤、EPRエフェクトについても説明しています。
今回これを調べるに至った理由は
米シカゴ大学の中村祐輔教授らがOTS964が肺がん、乳がんの治療に高い効果がある事を確認したという記事を見た事から始まりました。
学中村祐輔教授グループによる、TOPKを阻害する新規抗がん剤の開発に関する論文がScience Translational
Medicine誌に掲載されました。
実験ではOTS964という開発中の薬を投与した所、マウスの肺がんを完全に消滅させたそうです。
TOPKとは?
(T-LAK cell-originated protein kinase)
(T–lymphokine-activated killer cell–originated protein kinase)
lymphokine weblio辞書:http://www.weblio.jp/content/lymphokine
protein kinase wiki:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%86%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC
TOPKは肺癌、乳癌細胞の成長を助ける効果があります。具体的には後で説明します。
今回開発された新薬は10年前からこの事に目をつけて研究してきたそうで、
300,000の組み合わせのあるうち、1,000以上を合成しいくつか人間にも効果がありそうなのを探し出しました。
OTS964はTOPKをターゲットにしたを薬で、
TOPKは広くの癌で生成され、又腫瘍の成長を助けると考えられてきました。
肺がんや、乳がんの患者で高いTOPKが見られた場合予後不良と言えます。
初期段階の研究ではOTS514ががん細胞を殺す事が分かっていましたが、
赤血球と白血球の生成も阻害してしまう副作用がありました。
これは、貧血症や感染のリスクを高めてしまいます。
それと同時に血小板の生成を増加させ、血液凝固のリスクも高めてしまいました。
しかし、研究者らはリポソーム製剤とする事で、赤血球と白血球の生成を阻害しないようにしました。
リポソーム製剤とは、細胞と似た顕微鏡を使わないと見えないような膜で覆われた泡のような物の中に薬を入れる事で
他の組織に影響を与えずに患部まで薬を運ぶ事を可能とします。
次の図の左側にある拡大図がリポソーム製剤としたOTS964です。
血管に投与されたリポソーム製剤としたOTS964は患部に到達すると、血管から漏れ出し癌に働きかけます。
この漏れ出し蓄積する事をEPRエフェクトと言うようです(Enhanced permeation and retention effect)
少し分かりやすいEPRエフェクトの動画を見つけました(OTS964とは無関係の動画です)
動画の中では青い球が血管の中を流れていますがこれをリポソーム製剤とした薬と考えてください
最初は薬が大きすぎて癌の患部に漏れ出す事が出来ませんが、
特殊な製法で小さくする事で、患部の小さな隙間から漏れ出す事ができます。
そして腫瘍組織に蓄積する事で中の薬が腫瘍に働きかける事ができます。
この青い薬が白血球と一緒に血管を流れている映像がありますが、
リポソーム製剤とされていない場合は、この段階で赤血球にも影響を与えてしまうと考えるとイメージしやすいかもしれません。
EPR効果
腫瘍組織では,正常組織に比べ血管透過性が著しく亢進しているため,高分子や微粒子が血管より流出しやすい.また,リンパ系が発達していないため,腫瘍組織に到達した物質は蓄積する.このような特性をEPR効果といい,がん細胞に対する受動的ターゲティングを行ううえで重要な因子となっている. (2007.11.12 掲載)
研究者はこのリポソーム製剤とする事で造血毒性を完全に除去できたと記しているそうです。
マウスでの試験
以後OTS964はリポソーム製剤として説明します。
この試験では非常に攻撃的な人の肺癌組織(LU-99)を利用して行われました。
マウスの中で腫瘍の大きさを150立法ミリメートルまで大きくさせ、試験を行いました
6匹のマウスに3週間に渡り週2回静脈内に投与した所、腫瘍は急速に縮小し
薬の投与を止めてからも縮小が続き、5匹のねずみの癌が完全に消滅しました。
3匹は薬の投与を始めてから25日で
2匹は薬の投与を始めてから29日で癌細胞が消滅しました。
リポソーム製法とした薬では副作用は確認されませんでした。
この薬は、口から服用する事でも効果を得られます。(血管に投与するより多目の量を服用します)
同じように6匹のLU-99腫瘍のあるマウスに1kgにつき100mgのOTS964を2週間にわたり毎日与えたところ、
服用を止めた後も6匹全てのマウスで腫瘍の収縮、消滅が確認されました。
6匹のマウス全てが貧血症気味になりましたが、2週間のうちに無事回復しました。
中村祐輔教授は「多くの薬で癌の進行を遅らせる効果がマウスの実験で確認されているが、癌細胞を根絶を確認できたのは非常に稀」と語っている。
似たような研究で、体外で癌細胞を成長させ、癌細胞が死ぬプロセスを録画する事もしており。
細胞分裂は行われるが、最終段階で2つの細胞に分かれる事が出来ず、不完全な状態で繋がったままとなる。
TOPKたんぱく質は癌細胞が細胞分裂する際の終盤で重要な役割を果たしている事が分かった。
TOPK細胞無しでは、細胞分裂が成功しないようだ。
中村祐輔教授は「完全に細胞分裂が終わらず、細い端のような物で繋がった状態になってしまい、それが切れた時には癌細胞が穴を閉じきれずに中身が溢れ出し、癌細胞は痛みながら死んでいく」
と説明している。
今回の研究は肺癌について行われているが、TOPKを狙う薬は正解なのかもしれません。
他の癌や一定の白血病にも効果があるのか今後の研究が気になるところです。
2015年秋に第1相臨床試験を行うという事なので、実用化はまだまだ先となりそうですが、
もしこれが本当に癌に対する対抗薬となれば、人の寿命も大きく伸びる事になるのでしょうか?
凄く楽しみですね
主に下記のサイトを参考にさせて頂きました
http://news.uchicago.edu/article/2014/10/22/highly-effective-new-anti-cancer-drug-shows-few-side-effects-mice
http://www.cancerresearchuk.org/about-us/cancer-news/news-report/2014-10-22-experimental-drug-shrinks-lung-cancer-tumours-in-mice